在宅施術をするようになってから、それまでの患者さんたちとは明らかに違う環境での施術が増え、私の未熟さから悪い癖がつくようになりました。
環境の変化が起きる理由は、「高齢者の方だから」ということではなく、保険適応のマッサージ自体が「歩行困難」、もしくは「歩行不可能」という方に対して適用されるからです。
具体的には、介護ベッドでの施術が増えたことが大きかったと思います。
基本的に上記の状態の方たちですから、外出するにしても限られたエリアでの移動、外出できなくて自宅の中だけだと段差や障害の少ない環境での生活、歩行が本格的に困難な場合、ベッド上での生活が主になってきます。
なにが起こるかというと、日常に変化が起きなくなってきます。
慣れたところで慣れたことだけ、その繰り返しで新しい発見や新鮮な経験、そういったものが減っていきます。
そうすると、テレビを通しての話題が主となり、他は身をもって語ることが昔のことばかりになってしまい、新しい話題は出てきません。
毎回同じ話を初めて話すかのように新鮮な表情でしてくれる方も少なくないのです。
こちらも新鮮な気持ちで聞くようにしています。
「同じ話を繰り返す」というのは認知症の場合もありますが、そういった病名のつかないケースでは新しい経験が圧倒的に少ないことが原因だと思っています。
動けるということ自体が、人の好奇心と連動しているようでもあり、やはり活力の源だったりすることがあるのでしょう。
介護ベッドでの施術が増えてついた悪い癖というのは、体を上手に使うよりも、手先で合わせる癖がついたことです。
ベッド中心で生活する方は、ティッシュ、テレビのリモコン、孫の手、タオル、薬、体温計などなどをベッド上の手の届く範囲に置くことが多いのです。
ベッド自体も部屋の中心よりは片側を壁に寄せてセットされるケース大半のため、限られた時間内で動いて施術するとなると、自分の取りたい態勢をとれないことが多々あり、つい楽をしてしまうことがありました。
お店を開いたことで自分のやりやすい環境が整ってきたこともあり、これまでについてしまった悪癖の修正もできてきています。
患者さんたちはできる範囲で過ごしやすいように適応していきます。
私たち施術者も患者さんに合わせていくのですが、きちんとした体の使い方、身に付いた技術、そういったものがないと惰性やごまかしで適応させていき、修正をかけづらい癖にしてしまうことをこの数年間で学びました。
施術する事自体大事ですが、環境を整える、そういったことも同時に行っていく必要があります。
全力を出せる技術を身に着ける、全力を出せる環境を整える、それが今の私にとって必要なことだと思っています。
ある段階に達すれば、場所も時間も選ばず結果を出せるようになるのかもしれません。
環境を整えるというのは、自分がどういう気持ち・考えの元この取り組みをしているのか、この先どうなっていきたいのか、そのためには今どういう状況でどういう環境でやるべきなのか、それらを踏まえた環境(物や空間だけでなく、関わる人たちとの関係性など)の整備です。
なにか思い切った決断をするとき、しがらみなどで行動に移せないことがあります。
そういう時にも環境の整備が常に成されていると、スムーズにチャンスをつかめます。
保険での訪問マッサージでは、患者さんや御家族、介護者やケアマネさんにヘルパーさん等に理解していただいて協力してもらえることが欠かせません。
治療院であれば来てくださる患者さんや御紹介してくださる方、近隣のお店やお住いのみなさんでしょうか。
おそらく「人間性を磨いていくこと」がそういった環境づくりに必要なのだと思います。
エゴを薄くしていくことでもあると思っています。